2000年代初頭、テレビドラマの爆発的なヒットで一躍人気俳優の仲間入りを果たした小栗旬。しかし、彼の本質的な脱皮を決定づけたのは、間違いなく蜷川幸雄という「劇薬」との遭遇だった。当時の蜷川の稽古場は、生半可なアイドル気取りを根底から打ち砕く戦場そのもの。投げつけられる怒声、飛び交う灰皿や靴。そこは、甘えを一切許さない苛烈な空間だった。
「下手くそ」「帰れ」——そんな言葉の絨毯爆撃を受けながら、小栗は逃げ出さなかった。むしろ、プライドを粉々に砕かれながらも喰らいついた。自身の演技の拙さに涙を流し、夜を徹してセリフと向き合う日々。その姿に、蜷川は単なるスター性ではなく、一人の「舞台役者」としての業(ごう)と飢えを見出していったのだ。