「徳利の先端にある尖った注ぎ口(宝珠口)から酒を注ぐのは『縁を切る』に通じるためNGであり、丸い部分から注ぐべきだ」——ここ数年、ネットやテレビのビジネスマナー特集でまことしやかに囁かれてきたこのマナー。しかし、歴史的・機能的な観点から見れば、実は大きな矛盾を抱えている。
そもそも徳利の尖った注ぎ口は、液体が垂れにくく美しく注げるよう、職人が試行錯誤の末に生み出した機能美そのものだ。丸い部分から注ぐと酒が伝い漏れし、テーブルや袴を汚す原因にもなる。歴史的文献や伝統的な酒道の記録を紐解いても、「注ぎ口を避ける」という作法は古来存在せず、近年に創作された都市伝説の域を出ない。
では、なぜこのような言説が広まったのか。一説には「武士の暗殺を防ぐため注ぎ口に毒を塗ったから」「円満の円を意識させるため」といった後付けの由来が語られるが、本来の酒席で最も重視されるべきは「相手に不快感を与えず、美味しく日本酒を楽しんでもらうこと」だ。形骸化したルールに縛られて酒をこぼしては本末転倒である。