1970年代、日本映画界の熱量を決定づけたのは間違いなく東映が世に送り出した実録路線だった。その熱狂の渦中にあって、暴力のリアリズムを冷徹に刻み込んだのが片岡五郎の存在だ。金子信雄や菅原文太といった強烈な個性が激突する群像劇の中で、彼は単に声を荒らげるチンピラではなく、静寂の中に狂気を孕んだアウトローを演じきった。
特に『仁義なき戦い』シリーズをはじめとするヤクザ映画において、彼の放つ乾いた眼差しは異彩を放っていた。仁義や義理立ての美名に隠された人間の生々しいエゴや裏切りを、わずかな表情の変化だけで表現する。観客は彼が登場するたび、「この男は何をしでかすかわからない」という本能的な恐怖を突きつけられたのだ。
映画監督たちにとって、画面に真の緊迫感をもたらすピースとして彼ほど頼もしい演者はいなかった。東映黄金期を支えた職人肌の映画人たちと切り結んだ現場の空気は、まさに映画史に刻まれるべき奇跡的な瞬間だった。