松本白鸚のキャリアを語る上で欠かせないのが、単独主演記録を更新し続けたミュージカル『ラ・マンチャの男』の存在です。1969年の初演からドン・キホーテ/セルバンテス役を演じ続け、2026年4月の神奈川・横須賀公演をもって通算1,321回で半世紀以上にわたる主演に幕を下ろしました。
当時80歳で迎えたファイナル公演では、激しいアクションや情感あふれる歌唱を全身全霊でやり遂げ、満場のスタンディングオベーションを受けました。この「ライフワークからの勇退」がメディアで大々的に報じられた際、演劇ファンの一部に「引退」や「健康問題の深刻化」という印象を与えた側面があります。
しかし、白鸚本人は『ラ・マンチャの男』を終えた後も、本領である歌舞伎舞台への出演に意欲を燃やし続けています。立ち役としての激しい立廻りこそ後進に譲る場面が増えたものの、重厚な台詞回しと舞台空間を支配する眼力は健在であり、生涯現役を貫く役者魂は揺らいでいません。