ヤギに対する恐怖は、単なる生物学的な拒絶にとどまらない。人類の文化史や宗教観にも深く根を張っている。西洋キリスト教圏において、ヤギは古くから異端や悪魔の象徴として描かれてきた。二本足で立ち上がり、角を生やした悪魔「バフォメット」の姿は、まさにヤギの頭部を模したものである。
羊が「神の従順な僕(しもべ)」とみなされる一方で、気まぐれで人間に従わず、硬いツノで攻撃してくるヤギは「反逆者」「欲望の象徴」とされた。中世ヨーロッパの魔女裁判の記録にも、サバト(悪魔の夜宴)で黒ヤギの姿をした悪魔が現れるという記述が散見される。ハリウッドのホラー映画や現代のダークファンタジー作品でも、不吉な前兆としてヤギが登場する演出は定番化しており、私たちの潜在意識に「ヤギ=恐ろしい存在」というイメージが刷り込まれている側面は否定できない。