テレワークが定着した昨今、多くのビジネスパーソンが直面するのが「在宅勤務なら熱があっても多少は作業できるのではないか」というセルフ同調圧力です。SNSや匿名掲示板等でも「38度あるけれど、家だからと無理してPCを開いていたら症状が悪化した」「熱があるのに上司から『在宅でメール返信くらいはできるよね』と言われて断れなかった」という現場の悲痛な声が数多く見受けられます。
しかし、産業医学および組織心理学の観点から言えば、38度の状態でのテレワーク稼働は絶対に行うべきではありません。
1. 脳機能低下による「致命的なエラー」の発生
38度を超える高熱下では、脳のワーキングメモリ機能や論理的思考力が大幅に減退します。誤送信による情報漏洩、金額の入力桁間違い、顧客への不適切な返答など、通常時ではあり得ない初歩的ミスを誘発しやすくなります。これらは本人の責任問題に発展するだけでなく、企業の信頼失墜に直結します。
2. 病状の遷延化と長期離脱リスク
高熱が出ている間、身体は莫大なエネルギーを消費して病原体を排除しようとしています。この時期にPC作業などの精神的ストレスや視覚疲労を加えると、免疫応答が阻害され、本来であれば2〜3日で解熱するはずの疾患が1週間以上長引くことになります。結果として、組織全体の戦力ダウンを長引かせる結末を招きます。
3. 「プレゼンティーズム」による経済損失
体調不良のまま無理して勤務することを専門用語でプレゼンティーズム(Presenteeism)と呼びます。近年の健康経営調査において、プレゼンティーズムによる企業の生産性低下損失額は、欠勤(アブセンティーズム)による損失額の約3〜4倍に上ることが示されています。「無理して少しだけ働く」行為は、会社のためになっているようで、実際には最も生産性を損ねる行動なのです。