ラフカディオ・ハーンの足跡を語る上で欠かせないのが、松江の拠点と、静岡県に位置する焼津小泉八雲記念館との連関です。ハーンは日本滞在中、いくつかの土地に暮らしましたが、彼が心から魂を安らげた場所として「松江」と「焼津」は双璧をなしています。
松江におけるハーンの暮らしを今に伝えるのが、記念館のすぐ隣にある国指定史跡・小泉八雲旧居(根岸家旧屋敷)です。ハーンは1891(明治24)年5月から約5か月間、この旧松江藩士の屋敷でセツとともに暮らしました。三方に配された日本庭園をこよなく愛し、朝夕に池の蛙や鳥、草木の移ろいを眺めながら思索に耽ったと伝えられています。記念館の近代的な展示空間で知的理解を深めた直後、旧居の縁側に座って八雲と同じ視線で庭を眺める体験は、松江ならではの贅沢な時間です。
一方、東京帝国大学で教鞭を執るようになって以降、毎年のように夏を過ごしたのが静岡県の焼津です。焼津小泉八雲記念館は、ハーンが滞在した魚商人・山口乙吉邸の記憶や、豪快な駿河湾の荒波で水泳を好んだハーンの「海の記憶」を中心に構成されています。静謐な堀端と庭園文化のなかで精神の内面を見つめた「松江」、雄大な自然のなかで生命力を解放した「焼津」という対比を捉えることで、八雲の多面的な人間像が鮮明に浮かび上がります。