作中に散りばめられた象徴的モチーフを読み解くことで、「ポニョ=死神」という仮説も急速に拡散しました。その中核にあるのが、ポニョの父・フジモトが呼ぶ彼女の本名「ブリュンヒルデ」です。北欧神話におけるブリュンヒルデは、主神オーディンに仕え、戦場で命を落とした勇士の魂を選別して死者の館「ヴァルハラ」へ導く戦乙女(ワルキューレ)の名に他なりません。
この神話的背景を踏まえると、水没した海の上を進む宗介とポニョのポンポン船が遭遇する「舟の墓場(山のように重なり合って漂流する巨大船群)」のシーンは、現世の海難事故で失われた船々が集う霊界の縮図のように映ります。船乗りたちが互いに旗信号を送り合いながら静かに停泊する構図は、西洋絵画における「カロンの渡し舟」や死者の魂の集積所を彷彿とさせます。
さらに物語の終盤に登場する奇妙な「トンネル」は、民俗学における現世と常世を分かつ境界そのものです。ポニョはこのトンネルに入ることを極端に嫌がり、内部を進むにつれて人間の姿を保てなくなり、半魚人のグロテスクな形態へと退行して最後は完全に脱力した魚に戻ってしまいます。トンネルを抜けた先に広がるのは、ひまわりの家の老人たちとグランマンマーレが待つ神秘的な水底ドームです。すなわち、「トンネルを通過する儀礼=現世の肉体を捨てて異界へと完全に移行するプロセス」として解釈できる構造が緻密に組み立てられているのです。