客観的な事実しか語っていないにもかかわらず、なぜ多くの人が「恐ろしい猛毒」だと思い込んでしまうのか。酸化二水素デマの理由を心理学や認知科学の観点から紐解くと、人間の思考の脆弱性が浮き彫りになります。
第一に挙げられるのが「ケモフォビア(化学物質恐怖症)」と権威バイアスです。「酸化二水素」「ジヒドロゲンモノオキサイド」といった難解な化学物質名を聞くだけで、人間は本能的に「人工的な危険物質」と結びつけて警戒心を抱きます。
第二に「ネガティブ・バイアス」と「チェリー・ピッキング(事実のつまみ食い)」です。生物は生存確率を高めるため、利益よりも危機情報に強く反応する傾向があります。「死に至る」「腐食させる」といった極端なリスク情報のみを抽出して提示されると、それが全体のごく一部の側面であっても、その物質全体のイメージとして脳内に定着してしまいます。
現代のネット空間でも、特定の健康食品や食品添加物、医薬品をめぐる言説において、この「嘘は言わずに都合の良いファクトだけを切り貼りする手法」が頻繁に用いられています。文脈(コンテクスト)を完全に剥ぎ取られた情報は、悪意あるフェイクニュースよりも見破るのが困難です。