日本最大の警察組織である警視庁のなかでも、霞が関や桜田門界隈でひときわ異彩を放つのが警視庁公安部だ。所属する捜査官は約1,000人規模。単一の警察本部内に独立した「部」として公安部門を持つのは、首都東京を管轄する警視庁のみである。他県警では「警備部公安課」という一セクションにとどまるのに対し、その陣容と権限は桁違いだ。
彼らの主たる任務は、テロ対策、過激派の動向監視、カルト教団の追跡、そして外国情報機関による工作活動を阻止するカウンターインテリジェンス(対スパイ捜査)に集約される。特に近年、先端半導体技術やバイオテクノロジー、防衛機密を標的とした経済安全保障上の脅威が激増しており、外事課を中心とする現場の緊張感は極限状態に達している。
スパイ捜査において最も重要視されるのが「運営(エス工作)」と呼ばれる人的諜報活動(HUMINT)だ。ターゲットとなる人物や組織の内部に協力者を見つけ出し、時間をかけて信頼関係を築き、情報を吸い上げる。捜査員は自らの身分を家族にすら偽り、数か月から数年にわたって対象者をマークし続ける。逮捕して法廷に立たせることだけがゴールではない。相手国のスパイネットワークの全容を把握し、工作を無力化することこそが最大の勝利とされるからだ。