一般的な表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)は、人間の皮膚上で比較的穏やかに暮らす「おとなしい隣人」だ。ところが、1988年にフランスのリヨン(旧名ルグドゥヌム)で初めて特定されたこの菌は、分類上は凝固酵素陰性ブドウ球菌(CoNS)に属しながらも、その凶暴さは病原性の王者たる黄色ブドウ球菌に極めて近い。
心臓の弁を数日のうちに破壊する心内膜炎、人工関節の周囲で形成される強固なバイオフィルム、そして皮膚深部の膿瘍。これら重症感染症を引き起こす組織破壊酵素や毒性を、彼らは自前で保有している。専門家が「羊の皮をかぶった狼」と形容する根拠がここにある。