1995年7月22日夕刻、青木恵子氏の自宅兼ガレージから突如として猛烈な炎が上がりました。入浴中だった青木恵子氏の愛娘・めぐみさんは、立ち込めた一酸化炭素と炎に阻まれ、逃げ出すことができずに命を落としました。当時31歳だった青木氏は、子供思いの母親として実直に生活を送る一市民でした。しかし、事件直後から捜査機関と一部メディアは彼女に対して冷酷な疑いの目を向け始めます。
捜査の焦点となったのは、めぐみさんに掛けられていた総額1500万円の生命保険金の存在でした。当時、生活苦から内縁の夫とともに保険金目当ての放火殺人を企てたとする見立てが警察内で急速に組み立てられていったのです。「母親が実の子を保険金目当てで焼き殺した」というショッキングな構図はワイドショーなどでセンセーショナルに報じられ、社会的な偏見が瞬く間に形成されていきました。
しかし、東住吉事件の真相は保険金殺人などではありませんでした。駐車スペースに停めてあったワンボックスカーの燃料ホースの亀裂からガソリンが漏出。気化したガソリンが隣接する風呂釜の種火に触れたことで生じた、痛ましい自然発火事故だったのです。現場検証の初期段階でガソリンの漏出痕が見落とされ、「人が故意にガソリンを撒いて火をつけた」という誤った前提で捜査が突き進んだことが、凄惨な冤罪の経緯における最大の過誤でした。