『ブランデーグラス』といえば、誰もが「片手に持った巨大なグラスのフチを指で撫で、中の琥珀色の液体をゆっくり回しながら歌う姿」を思い浮かべるはずです。ものまねタレントのゆうたろうさんをはじめとする数多くのパフォーマーがこのスタイルを踏襲したことで、日本人の集合的無意識に裕次郎スタイルとして焼き付きました。
ところが、当時の歌番組やステージ映像を丹念に検証すると、裕次郎さん本人は歌唱中にブランデーグラスを持って歌ったことがほぼありません。実際のステージでは、スタンドマイクの前に凛と立ち、両手を自然に下ろすかポケットに軽く手を添え、直立不動に近い端正な佇まいで情感たっぷりに歌い上げていました。
では、なぜあの強烈なイメージが定着したのでしょうか。最大の要因は、ドラマ『西部警察』の捜査課長室で木暮課長がブランデーを傾ける渋いカットや、当時の雑誌グラビア、映画のワンシーンで見せたグラスを持つ姿が、後年のものまね芸によって象徴的にデフォルメされ、楽曲のタイトルと結びついて一人歩きした点にあります。虚像が本物の魅力を凌駕するほど愛されたのも、裕次郎という存在の規格外のスター性ゆえと言えます。