役者へ転向した藤木孝の才能が最も鋭利に研ぎ澄まされたのが、蜷川幸雄演出の舞台でした。劇団四季などのミュージカル出演を経て演劇界で着実に地歩を固めた彼は、蜷川演出のシェイクスピア劇や現代劇において欠かせない重鎮として重宝されます。
『ハムレット』『タイタス・アンドロニカス』『ペリクリーズ』といった蜷川作品において、藤木が担ったのは物語の陰影を決定づける重要な役どころでした。鋭い眼光、低く響き渡る明瞭な発声、そして貴族的な気品と狂気を同居させた立ち振る舞いは、国内外の演劇関係者から絶賛を浴びました。
稽古場で一切の妥協を許さない蜷川幸雄の過酷な要求に対し、藤木は常に完璧な身体表現と解釈で応え続けました。「舞台上で役として生きる」という徹底した職人精神は、この時代に不動のものとなったのです。