本作の吹き替えを語る上で最大の論点となるのが、ウィリー・ウォンカという怪人物を巡る宮野真守と藤原啓治の表現哲学の違いです。両者は同じ脚本・同じ映像に向き合いながら、まったく異なる色彩のウォンカ像を立ち上げました。
藤原啓治が体現した「大人になりきれない孤独と冷徹なアイロニー」
DVD/Blu-rayソフト版でウォンカを担当した藤原啓治(2026年逝去)は、ジョニー・デップ本人が持つ独特の「気だるさ」や「底知れない冷たさ」を的確にすくい取りました。ジョニー・デップの吹き替えといえば平田広明が広く認知されていますが、ティム・バートン作品特有の歪んだキャラクター造形において、藤原啓治の乾いたハスキーボイスは完璧な親和性を示しています。
子どもたちを次々と見捨てる残酷なシーンでも、声を荒らげることなく淡々と放たれるセリフの数々は、大人の鑑賞に耐えうるブラックユーモアを漂わせています。人とコミュニケーションを取ることが極端に苦手な「孤独な偏屈者」としての内面を深く掘り下げた演技です。
宮野真守が放った「極上のエンターテインメント性と跳ねるリズム」
一方、2008年の日本テレビ系「金曜ロードショー」初放送時に抜擢された宮野真守は、劇団ひまわり出身ならではの身体性を感じさせるダイナミックな演技を披露しました。当時『DEATH NOTE』の夜神月役や『機動戦士ガンダム00』の刹那・F・セイエイ役でトップ声優の仲間入りを果たしていた宮野は、ウォンカの持つ奇抜さと道化師のような軽薄さを前面に押し出しました。
甲高い笑い声や早口でまくし立てるアドリブ感あふれる掛け合いは、テレビの前の家族連れを一瞬で引き込む求心力を持っています。陰湿さを感じさせず、まるでテーマパークのアトラクションに乗っているかのような高揚感を生み出した点において、地上波ゴールデンタイムの役割を完璧に果たした名演と評価されています。