鉄道各社がスピードや効率化を競い合うなか、近鉄80000系「ひのとり」が打ち出したコンセプトは「くつろぎのアップグレード」でした。単なる移動手段としての鉄道から、乗車そのものが目的となるような滞在空間への転換です。深紅のメタリックボディに身を包んだその姿は、登場時から現在に至るまで名阪特急の象徴として輝きを放ち続けています。
最大のブレイクスルーは、日本初となる「全席バックシェル構造」の全面採用です。従来の特急や新幹線では、座席を倒す際に後部座席への声掛けや気遣いが心理的ストレスとなっていました。しかし、ひのとりではシートがシェル内でスライドするため、後ろの空間をまったく圧迫しません。この「気兼ねなく完全にリクライニングできる自由」が、長距離移動における精神的疲労を劇的に軽減させています。
さらに、先頭・最後尾に配置されたプレミアム車両は、全席が3列配置(2+1列)のハイデッカー仕様となっており、見晴らしの良さとプライベート感が極限まで高められています。本革仕立てのシートには電動リクライニング、電動レッグレスト、読書灯、シートヒーターが完備され、航空機のビジネスクラスや国際線ファーストクラスを彷彿とさせる贅沢な移動体験を実現しています。