料理本やレシピサイトで長年「常識」とされてきた「切ったらすぐ酢水につける」という手順。しかし、料理の現場や調理科学の研究において、煮物やホクホク感を楽しみたい料理で酢水を使うのは避けるべきという見解が定着しています。
レンコンの細胞壁には「ペクチン」という多糖類が含まれています。ペクチンは酸性の環境(酢水など)に触れると結合が強固になり、加熱しても細胞同士が崩れにくくなる性質を持っています。これがレンコンシャキシャキ下処理の科学的メカニズムです。酢ばすやサラダ、ピクルスのように歯ごたえを最優先する料理には最適ですが、筑前煮や煮物のように「もっちり」「ホクホク」とした食感を目指す場合、酸によって組織が引き締まりすぎてしまい、いくら煮込んでも硬いまま味が中まで染み込まない原因になります。
そもそもれんこんアク抜きの理由は、ポリフェノール化合物の一種であるタンニンやクロロゲン酸が空気に触れて酸化し、黒褐色に変色するのを防ぐこと、そして特有のえぐみ・渋みを和らげることにあります。現代流通している栽培レンコンは品種改良や鮮度管理が進んでおり、昔の泥付き品種に比べてアクそのものが非常に少なくなっています。そのため、変色防止だけであれば真水に2〜3分さらすだけで十分であり、過度な酢水処理は素材本来の甘みや香りを洗い流してしまうリスクすらあります。