2010年2月、成田空港からバンクーバー五輪へ出発する際、國母和宏が見せた服装は日本中に大激震を走らせました。ネクタイを緩め、シャツの裾を出し、スノーボードウェア特有のオーバーサイズ感を反映した「腰パン」スタイル。この出で立ちが日本オリンピック委員会(JOC)の公式行事におけるマナー違反としてワイドショーや国会にまで取り上げられ、猛烈な批判運動へと発展したのです。
さらに現地での緊急記者会見において、小さな声で発せられた「チッ、反省してまーす」という呟きがマイクに拾われたことで、火に油を注ぐ結果となりました。当時の日本社会における「日の丸を背負うアスリートは礼儀正しく従順であるべき」という規範と、國母が身を置いていた「自己表現と反骨精神を是とする横乗りストリートカルチャー」が真っ向から衝突した象徴的な事件でした。
後に國母は当時の心境について、「スノーボーダーとしての自分のスタイルを曲げたくなかった」「大人の形式的な押し付けに対する反発があった」と語っています。結果として本番のハーフパイプ競技では果敢な高難度ルーティンに挑んで8位入賞を果たしたものの、世間的な偏見を払拭するには至りませんでした。