『手紙』の物語を深く理解する上で欠かせないのが、直貴の周囲を取り巻く主要人物たちの存在です。単なる善悪では割り切れない人間関係の機微が、物語に圧倒的なリアリティを与えています。
武島直貴(弟):兄の罪によって将来を奪われ、社会の片隅で息を潜めるように生きる青年。差別に絶望しながらも、自らの力で人生を切り開こうともがきます。
武島剛志(兄):弟を大学に行かせたい一心で強盗殺人を犯してしまった元凶。獄中から悪びれることなく純粋な愛情の手紙を送り続け、無自覚に弟を苦しめます。
白石由実子:直貴の不遇な境遇を知りながらも、逃げることなく支え続ける芯の強い女性。後に直貴と結婚し、直貴が兄と向き合うための決定的な役割を果たします。
中条朝美:直貴が大学時代に惹かれ合った裕福な令嬢。直貴の出自が知られたことで、一族の体面を守る親族によって関係を強制的に引き裂かれます。
平野社長:直貴が就職した電器部品加工会社の社長。直貴の素性を知りながら差別せず雇用する一方で、社会における「差別の本質」を冷徹に説く極めて重要な人物です。
緒方忠夫:剛志に母親を殺害された被害者遺族。剛志から届く一方的な謝罪の手紙に毎月苦しめられ、終わりのない喪失感を抱え続けています。