北海道の木彫り文化を語る上で切り離せないのが、アイヌ文化・民藝の深い精神性だ。アイヌの人々にとって熊は「キムンカムイ(山の神)」であり、畏怖と敬意をもって大切にされてきた。そうした自然への崇敬の念と、大正から昭和初期にかけて柳宗悦らが提唱した民藝運動の精神が交差し、木彫り熊は単なる工業製品ではない独自の芸術性を獲得していく。
その証拠に、日本民藝館をはじめとする美の目利きたちも、北海道の市井の職人やアイヌの彫刻家たちが生み出す無垢な木彫りの美しさを高く評価してきた。
木彫り熊の表現技法は、大きく分けてふたつ存在する。一本一本の毛並みを細かくノミで刻み込む伝統的な「毛彫り」と、角ノミや平ノミの削り跡をそのまま残して面で立体を表現する「面彫り(カットマスク)」だ。とりわけ、余分な装飾を削ぎ落とした「面彫り」の作品は、抽象彫刻のようなモダンさを備えており、北欧のミッドセンチュリー家具や建築的デザインと抜群の相性を誇る。職人のノミの一打ごとに宿る温もりと抽象性こそが、現代人の感性を刺激してやまない。