引退から約1年半後の2010年5月、世間を揺るがす一冊の書籍が刊行されます。後藤忠政氏の半生と裏社会の深奥を赤裸々に語り下ろした自叙伝『憚りながら』(宝島社)です。ヤクザ社会を完全に退いた元大物組長が、自ら実名で組織の内幕や政官財との癒着を告白したこの書籍は、発行部数数十万部を超える大ベストセラーとなりました。
同書の中で暴露された内容は、社会通念を根底から覆すものでした。大手金融機関が絡む不良債権処理や地上げ工作の裏面史、大物政治家とのパイプ、そして巨大宗教団体との間で交わされたとされる密約や汚れ仕事の請負の実態など、公の場では決して語られてこなかったタブーが次々と白日の下に晒されたのです。
引退直後に得度し、僧名を名乗っていた後藤氏がなぜここまでの暴露に踏み切ったのか。裏社会では「引退に追い込んだ六代目執行部への意趣返し」「自らを切り捨てた政財界のフィクサーたちへの警告」など様々な憶測が飛び交いました。いずれにせよ、この著書は単なる暴力団の回顧録にとどまらず、戦後日本の高度経済成長からバブル崩壊期における「表と裏の共犯関係」を証言する一級の社会記録として、今日でも読み継がれています。