「偶然会えないかな」「偶然出会って意気投合しないかな」。誰しも心の中で一度は思い描いたことのある「都合の良いストーリー」を、清水依与吏は一切オブラートに包まず歌詞に仕立て上げた。「高嶺の花子さん」の主人公は、意中の女性に積極的に声をかけるわけでもなく、ただ遠くから彼女の日常や好みのタイプを勝手に推測し、脳内で妄想を繰り広げる。この「行動を起こさないまま頭の中だけで暴走する思考過程」が、受け手によっては強烈な生々しさを生み、「気持ち悪い」と感じさせる最大の要因だ。
だが、その妄想の裏にあるのは狂気ではなく、圧倒的な自己評価の低さと自信のなさだ。「自分なんか相手にされるはずがない」という諦念があるからこそ、妄想のなかでしか彼女に近づけない。この人間くさい滑稽さと切なさの絶妙なバランスこそが、聴く者の記憶に突き刺さる。