家族社会学および心理学の視点から八代目菊五郎の歩みを分析すると、伝統的な「家制度のプレッシャー」と「個人のアイデンティティの確立」という極めて困難な二項対立を、見事に昇華させた好例として位置付けることができます。
昭和から平成の芸能界・伝統芸能界においては、親の威光が強すぎるあまりに子どもが重圧に押し潰されるケースや、過度な期待による「心理的バウンダリー(境界線)」の崩壊が散見されました。しかし、音羽屋においては、父・七代目菊五郎の自由闊達な指導方針と、母・富司純子の細やかな家庭内サポートが機能し、息子が健全な自立を保ちながら芸の精進に集中できる環境が整えられていました。
伝統芸能を深く楽しむための判断基準
八代目菊五郎が率いるこれからの歌舞伎を鑑賞・応援するにあたり、観客側にも視点の持ち方が求められます。
- 古典の様式美と革新性を同時に味わいたい人:八代目菊五郎の舞台はまさに最適です。研ぎ澄まされた伝統の技と、現代的なテンポ感を両立させた圧巻の舞台体験が得られます。
- 形式的な伝統のみを至上命題とする保守的な鑑賞者:ゲームやアニメを原案とした新作歌舞伎に対しては違和感を覚える可能性があります。ただし、彼が演じる古典の『弁天小僧』や『髪結新三』などの世話物を鑑賞すれば、その圧倒的な基礎力に納得せざるを得ないはずです。