華やかなステージの一方で、女性演歌歌手の私生活やデビュー秘話には多くの臆測や誤解が付きまといます。長年にわたる取材記録と公の証言から、その実情を精査します。
まず、ネット上で頻繁に検索される「結婚・熱愛の真相」についてです。演歌界ではかつて「ファンに夢を見せるため、私生活は一切明かさない」という暗黙の了解が存在していました。しかし近年はその傾向も大きく変化しています。
藤あや子が娘や孫との家庭的な日常や再婚をオープンに発信して同世代女性の共感を呼んでいるほか、杜このみが大相撲の高安関と結婚・出産を経て堂々と歌唱復帰を果たすなど、家庭を持ちながらプロとして舞台に立ち続けるロールモデルが定着しました。一方で、石川さゆりや坂本冬美のように「歌の道一筋」を貫き、私生活の情念すらも芸の肥やしへと昇華させている孤高のスタンスも高くリスペクトされています。
また、「演歌歌手は簡単にデビューできる」というのも大きな誤解です。彼女たちの多くは、幼少期からの過酷な民謡全国大会での鍛錬、作曲家の自宅に住み込んで雑用をこなしながら歌を学ぶ「内弟子修行」、あるいは数百軒のレコード店やスナックを回る地道な地方巡業(キャンペーン)という厳格な登竜門をくぐり抜けています。長山洋子のようにアイドル歌手として頂点を極めた後に津軽三味線を猛特訓して演歌に転向した例や、丘みどりのように地下アイドル時代の苦渋を乗り越えて再起した例など、挫折と再生のドラマこそが歌に本物の説得力を宿らせているのです。