『とと姉ちゃん』で坂口健太郎が演じた星野武蔵は、帝都大学理学部植物学科で研究に打ち込む純粋無垢な学生として初登場しました。大きな丸眼鏡をかけ、下を向いて足元の雑草に夢中になるあまり電柱にぶつかってしまうような不器用で真っ直ぐなキャラクター像は、初登場時から視聴者の庇護欲と共感を一気に集めました。
劇中における星野武蔵の年齢設定は、戦前の初登場時でおよそ20歳〜22歳前後。常子と出会い、青春を共に過ごしながらも戦争の暗雲が立ち込め、召集令状(赤紙)が届いたことで一度目の別離を余儀なくされます。そして、物語が大きく進んだ昭和30年代の再登場時には40歳前後の成熟した技術者として描かれ、坂口健太郎は見事なグラデーションで青年の初々しさと壮年期の父親としての哀愁を演じ分けました。
多くの視聴者が関心を寄せる「実在モデル」について検証すると、ヒロイン小橋常子のモデルである『暮しの手帖』創刊者・大橋鎭子は生涯独身を貫いた人物として知られています。大橋鎭子の自伝や当時の編集部関係者の証言録を紐解いても、星野武蔵という特定の単一モデルは存在せず、制作陣が「生涯を仕事と家族に捧げたヒロインの心の支えと、青春の象徴」として創り上げたドラマオリジナルの登場人物であることが公式に裏付けられています。実在の歴史を尊重しながらも、ドラマとしての情感を極限まで高めるために設計された極めて重要な役割だったと言えます。