スピードスキーにおける「速さ」は、一般的なゲレンデスキーの感覚を完全に超越しています。2026年3月、フランス・ヴァール(Vars)の特設コース「シャブリエール」で開催されたFISスピードマスターズにおいて、地元フランスのシモン・ビリー選手が時速255.500kmを樹立。これが2026年現在も破られていない男子の世界記録です。女子部門でも、イタリアのバレンティナ・グレッジオ選手が時速247.083kmという驚異的な記録を保持しています。
この速度は、時速に換算すると秒速約71メートルに達します。陸上競技の100メートル走をわずか1.4秒で駆け抜ける計算であり、新幹線「のぞみ」や「はやぶさ」の巡航速度に匹敵する領域です。動力を持たない人間が重力と斜度のみを利用して到達する速度としては、スカイダイビングの終末速度(うつ伏せ時でおよそ時速200km前後)すら上回っています。
競技が行われるコースの斜度は最大で70%〜98%(約35度〜45度以上)という、見下ろせば崖にしか見えない垂直に近い壁です。スタートからわずか数秒で時速200kmを突破し、コース終盤に設定された「計測区間100m」を何秒で通過したかによって瞬間最高速度を算出します。カーブを描くターン技術は一切排除され、求められるのは空気抵抗をゼロに近づけるフォームを維持する強靭な肉体と精神力のみです。