法医学者が作成する鑑定書は、日本の刑事司法において容疑者の立件や公判での判決を左右する絶大な法的効力を生む。法廷において執刀医が語る「死因」と「創傷の形成機序」は、検察側の主張を補強する決定打になることもあれば、弁護側の反証によって捜査機関の見立てを覆す逆転の鍵にもなる。
例えば、首を絞められた痕跡である頸部の圧迫痕、溺死特有のプランクトン検出、あるいは鈍器の形状を正確に型取る皮下出血のパターン観察。これらは単なる傷の観察にとどまらず、「被害者がどのような姿勢で、どれほどの抗拒不能状態にあり、加害者がいかなる殺意をもって攻撃を加えたか」という事件のドラマを立体的に再現する。科学的な客観性を極限まで高めた鑑定書こそが、裁判官や裁判員に揺るぎない事実に基く判断を可能にさせるのだ。