流血と叫び、そして逃亡。物語は冒頭から読者の息の根を止めるほどの緊迫感で幕を開ける。虐待や家庭の崩壊、学校での孤立という社会の暗部に押し潰されそうになった登場人物たちが選んだのは、どこにも辿り着けない「夏の終わりの逃避行」だった。
文学の歴史において、逃避行は常に若者の特権であり呪いとして描かれてきた。しかし本作における逃げるという行為は、単なるロマン主義ではない。それは生き延びるための必死の防衛本能であり、大人が構築した歪んだ世界に対する唯一の抗議行動なのだ。汗の匂い、青空のまぶしさ、そして絶望の冷たさ。圧倒的な熱量で描写される夏の光景は、読者自身がかつて抱いた「ここではないどこかへ行きたい」という欲望を暴力的なまでに呼び覚ます。