映画版『聲の形』は約2時間の枠に物語を凝縮した傑作ですが、尺の都合上、川井みきに関するいくつかの重要なエピソードが削られています。そのため、映画だけを観た視聴者と原作コミックを読んだファンとでは、彼女に対する解釈に微妙な差異が生じています。
原作で特に掘り下げられているのが、同じクラスの男子・真田広との関係です。ルックスが良く女子から人気の真田に対し、川井は好意を抱きつつも、どこか自分を引き立てるトロフィーのように扱っている節がありました。しかし真田は、川井の計算高さやあざとさを全て見抜いた上で彼女を面白がり、からかいながらも側にいます。
原作では、真田の何気ない一言で川井が動揺するシーンや、自己愛の鎧を剥がされそうになって取り乱す場面が描かれており、彼女が決して無敵の悪女ではなく、承認欲求に振り回される未熟な一人の少女であることが丁寧に描写されています。映画版ではこの生々しいやり取りが省略されたことで、結果的により「理不尽で厄介な優等生」という側面が純化されて映ることになりました。