安価な牛肉、特に輸入牛の肩ロースやモモ肉などの赤身肉は、筋線維が太く結合組織(コラーゲン)が強固なため、普通に加熱すると水分が抜けて固くなりがちです。ここで塩麹を使うと、米麹が生成する強力なたんぱく質分解酵素プロテアーゼが劇的な効果を発揮します。
プロテアーゼは肉の複雑な筋線維や結合組織のたんぱく質を断片化し、ペプチドやアミノ酸へと分解します。この作用によって肉の組織が物理的にほぐれ、加熱しても肉汁が外へ逃げ出さない「高い保水性」を獲得します。硬い赤身肉特有のパサつきが解消され、ふっくらと柔らかな食感へと仕上がるのはこのためです。
さらに、たんぱく質がアミノ酸へと分解される過程で、旨味成分の代表格であるグルタミン酸が急増します。塩麹に含まれる塩分が浸透圧によって肉の内部まで塩味を均一に行き渡らせるため、化学調味料に頼ることなく、肉本来の風味と芳醇なコクが引き出されます。単なる下味付けにとどまらず、肉質そのものを科学的に底上げする下処理法といえます。