「油で揚げていないのに、なぜレンジ調理で揚げ浸し特有のジュワッとしたコクが出るのか」という疑問には、ナスの細胞構造とマイクロ波加熱のメカニズムが関係しています。ナスは内部の約90%以上が水分で、組織全体が無数の空気孔を持つスポンジ状の構造をしています。通常の揚げ調理では、この空洞に大量の油が急速に吸収されることで独特のコクを生み出します。
レンジ調理では、ナスに含まれる内部の水分がマイクロ波によって一瞬で沸騰し、スポンジ状の細胞壁を内側から適度に破壊して蒸し焼き状態を作り出します。ここで重要なのが、あらかじめ表面に馴染ませておいた大さじ1杯程度のごま油やサラダ油です。熱せられた油がナスの表面温度をすばやく100℃以上に引き上げ、揚げたときと同様の香ばしい風味をまとわせます。
さらに、加熱直後のナスは内部の蒸気が外へ逃げようとして陰圧(引き込む力)が生じます。このタイミングですぐに冷たい出汁や常温の調味液に漬けることで、浸透圧と気圧差によって調味料が細胞の奥深くまで一気に吸い込まれていきます。油でギトギトにならず、出汁の旨味を凝縮させたジューシーな仕上がりになるのは、この物理変化を無駄なく利用しているためです。