他者のために身を粉にして動く心理の奥底には、自己犠牲を超えた合理的価値が存在する。行動経済学研究分野の知見によれば、人間は純粋な利己的利益の最大化だけで行動するわけではない。実験室で行われる公共財ゲームや独裁者ゲームの結果は、人が自己の取り分を削ってでも他者やコミュニティに貢献することに固有の効用を感じている事実を明示している。
進化生物学の視点もまた、利他行動が単なる気まぐれな善意ではないことを裏付ける。他者を支援することで脳内の報酬系が活性化し、ドーパミンやオキシトシンといった脳内物質が分泌される。この生理的反応は、ストレスの軽減、免疫機能の向上、ひいては寿命の延伸といった個体レベルでの驚くべきメリットをもたらす。他者を助ける行為そのものが、個人の心身を内側から強化する補酵素として機能しているわけだ。