伊藤園による買収が行われたのは2006年のことでした。当時、緑茶のトップブランドを確立していた伊藤園が、なぜ畑違いとも言えるシアトル系カフェの買収に乗り出したのかには、飲料業界ならではの切実な理由と緻密な経営戦略が存在します。
最大の狙いは、伊藤園にとって手薄だった「缶コーヒー市場でのプレゼンス拡大」と「若年層・都市型顧客の獲得」でした。緑茶カテゴリーで圧倒的な強みを持つ一方、巨大な市場規模を誇る缶コーヒー領域では大手競合の後塵を拝していた伊藤園にとって、タリーズの持つ洗練されたプレミアムブランドは喉から手が出るほど欲しいピースでした。
一方、タリーズコーヒージャパンの創業者である松田公太氏にとっても、この子会社化は会社とブランドを守るための決断でした。当時、経営難に陥りつつあった米国のタリーズ本社が、日本のタリーズを投資ファンド等へ売却しようとする動きを見せていたためです。信頼できる国内企業である伊藤園をホワイトナイト(友好的買収者)として迎え入れることで、ブランドの理念を守り抜く道を選びました。