一歩足を踏み入れると、視覚が一瞬惑わされる。壁面から調度品に至るまで、徹底して黒にこだわり抜かれたインテリア。そこには過度な装飾も、ギラついた照明も存在しない。
計算し尽くされた微弱なスポットライトが、差し出されたグラスの中の液体だけを神秘的に照らし出す。音響システムには特注のアナログスピーカーが採用されており、静寂の中に染み入るジャズやアンビエントミュージックが、客同士の会話を優しく包み込む。余計なノイズをぎりぎりまで削ぎ落とした空間だからこそ、グラスを傾ける手指の動きや、氷が奏でる微細な音にまで意識が研ぎ澄まされていくのだ。