田村正和さんの役者としての引き際は、後進の俳優たちにも大きな衝撃を与えました。引退の直接的な引き金となったのは、2018年2月に放送されたスペシャルドラマ『眠狂四郎 The Final』でした。
フジテレビの試写室で完成したプレビュー映像を観た田村さんは、自らの殺陣や声の張りに納得がいかず、周囲に「これじゃダメだ。もう使い物にならない」と漏らしたといいます。視聴者や批評家からは「70代半ばとは思えない優雅な立ち回り」と絶賛されたにもかかわらず、田村さん自身が設定する「役者・田村正和」の極めて高い基準には届いていなかったのです。
その後、週刊誌の直撃取材に対して田村さんは、穏やかな笑みを浮かべながらこう答えています。
「自分としては、もう十分にやったと思っています。静かにフェードアウトしていきたい」
引退会見を開いて大々的に世間の耳目を集めることすら嫌い、未練を一切残さずに表舞台から姿を消す選択をしました。自らの衰えをファンに晒す前に潔く幕を下ろす姿勢は、まさに本物のプロフェッショナルと呼ぶにふさわしいものでした。