炭治郎が無惨の匂いを嗅ぎつけ、刀の柄に手をかけた緊迫の瞬間、無惨は抱いていた娘を武器のように利用しました。炭治郎は無惨を斬り捨てる覚悟で詰め寄りましたが、無惨が人間の妻子を連れているのを見て激しく動揺し、攻撃を躊躇してしまいます。
なぜ無惨は、その場で娘や妻を鬼にしなかったのでしょうか。理由は極めて合理的です。あの場で妻子を鬼化させたり暴れさせたりすれば、自身が「鬼の始祖」である決定的な証拠を衆人環視の中で晒すことになります。無惨は何よりも自身の存在が明るみに出ること、平穏を乱されることを極度に嫌う性格です。
無惨はすれ違いざまの通行人を瞬時に鬼化させて大混乱を作り出し、その隙に警察や野次馬の注意を逸らして、妻子とともに何食わぬ顔でその場を立ち去りました。娘や妻は、無惨にとって人間社会に溶け込むための「隠れ蓑」であり、炭治郎を足止めするための人質に過ぎなかったのです。