「それがし」にまつわる情報のなかには、誤解されやすい盲点がいくつか存在します。正確な知識として押さえておきたい3つのポイントを解説します。
誤解1:「某」の読み方は「それがし」だけという勘違い
漢字の「某」を目にした際、すべて「それがし」と読むわけではありません。某の読み方と意味には以下のような区分があります。
- それがし:主に男性の一人称代名詞、または不特定の人物。
- なにがし:「某氏(なにがし)」のように、名前が不明・不特定な人や数量を指す(例:「金某(なにがし)円」)。
- ぼう:音読みで「某月某日」「某有名人」のように匿名化・記号化する際に使用。
誤解2:「それがしの類語・言い換え」はすべて同じように使えるという誤認
それがしの類語・言い換えとしては「私(わたくし)」「自分」「小生」「不肖」「当方」などが挙げられます。しかし、手紙の文面で男性が同等以下に向けて使う「小生」や、未熟さを強調する「不肖」とは異なり、「それがし」は口頭の対面コミュニケーションで存在感を示すための言葉でした。類語であっても使用される文脈と媒体が明確に異なります。
誤解3:女性は一切使わなかったという思い込み
一人称としての「それがし」は武士を中心とする男性語として定着しましたが、平安期の古典文学における「不定称(だれそれ)」としての用法では、女性の語り手や登場人物も自然に口にしていました。言葉の機能が「不特定の誰か」から「男性の一人称」へと収斂していく過程でジェンダーの固定化が起こったというのが言語学的な実態です。