青果関係者やバイヤーの間で「奇跡の甘さ」と称されるホクレンのよくねたいも。その純度高い甘みの正体は、決して人為的な糖添加や品種改良だけに依存したものではありません。植物が過酷な自然環境を生き抜くために備えている生命維持機構――専門用語でいう「低温糖化(コールド・スイートニング)」を極限まで科学的に制御した成果です。
北海道の畑で秋に収穫されたじゃがいもは、零度近い低温環境に晒されると、自身の大切な細胞組織が凍結して壊死するのを防ごうとします。水分が凍結する凝固点を下げるため、細胞内に蓄えたデンプンを自己の酵素(アミラーゼ等)で分解し、ショ糖やブドウ糖などの糖分へと自発的に変換します。これが、寒い冬の北海道でじゃがいもが甘くなる生理現象です。
しかし、単に倉庫に放置して冷やすだけでは、じゃがいもは春の訪れとともに休眠から目覚め、芽を出して自らの養分を消費してしまいます。そこで投入されたのが、ホクレンが誇る高度なCA貯蔵(Controlled Atmosphere Storage)技術です。
CA貯蔵庫内では、温度と湿度を極めて緻密にコントロールするだけでなく、庫内の酸素濃度を通常の大気(約21%)から大幅に下げ、逆に二酸化炭素濃度を適度に高めます。これにより、じゃがいもに「まだ厳冬の土の中にいる」と疑似的な錯覚を与え、呼吸代謝を極限まで抑制します。発芽を抑え込みながら眠らせ続ける(休眠状態を人工的に維持する)ことで、デンプンの糖化だけを数ヶ月間にわたって安全に進行させるのです。
食品成分の分析データによると、通常の新じゃがと比較して、長期間じっくりと熟成された馬鈴薯の可溶性糖類(糖度)は約2倍から品種によっては数倍規模にまで上昇することが確認されています。口に含んだ瞬間に広がる芳醇なコクとキャラメルのような後味は、最先端の農業技術と植物本来の生き残り戦略が見事に結実した証拠といえます。