神威岬周辺の熊事情を巡っては、SNSや旅行掲示板で事実と異なる憶測が独り歩きしています。旅行計画を誤らないために、代表的なネットの誤解を正しく解体しておく必要があります。
第一の誤解は、「熊鈴(ベアベル)を鳴らして歩けば先端まで行っても安全」という盲信です。登山者の定番対策である熊鈴ですが、日本海の強風が吹き荒れる神威岬においては、その効果は激減します。風速10メートルを超える突風が日常茶飯事の岬では、金属音の反響は海風にかき消され、数十メートル先はおろか数メートル先の風下にも届きません。さらに、低木や笹が密生する岬の斜面では視界が遮られるカーブが多く、お互いに気付かぬまま至近距離で突然遭遇する「バッファル遭遇」の危険が潜んでいます。
第二の誤解は、「海のすぐ近くだから、野生動物がいるはずがない」という先入観です。現代のヒグマは優れた遊泳能力を持ち、必要とあれば荒波を泳いで岩礁を移動することさえ可能です。事実、知床半島や積丹半島では、磯場を軽快に歩き回り、打ち上げられた魚や海藻を採食するヒグマの姿が幾度となく記録されています。「海=安全地帯」という都市生活者の感覚は、北海道の原生海岸では通用しません。
そして第三の誤解が「立ち入り禁止ゲートを乗り越えても自己責任で先端まで行ける」という悪質な軽視です。「女人禁制の門」は木製または簡易柵に見える構造の場合がありますが、ゲートの先は行政と管理者が法令及び安全基準に基づいて立ち入りを禁じた危険区域です。万が一事故が発生した場合、自己責任で済む話ではなく、救助隊や地元猟友会が命の危険を冒して断崖へ出動することになり、観光地としての将来を揺るがす甚大な社会的損失を招きます。