沼の底に住む銭婆によって、小さな「坊ネズミ」へと姿を変えられた瞬間、物語は大きく動き出す。本来であれば激怒して暴れるはずの坊だが、ネズミに変身した後は静かに千尋の肩に乗り、自らの足で歩き始める。ここには大きな心理的変化が隠されている。
銭婆の魔法は、坊を縛り付けていた湯婆婆の過保護な呪縛を解く「きっかけ」に過ぎなかった。ネズミという弱小な姿になったことで、坊は初めて自分の力で動き、千尋を手助けし、外の世界の風を感じる。言葉を失う代わりに手に入れたのは、他者への思いやりと自立心だった。沼の底の家で糸車を回す坊ネズミの姿は、労働の喜びと精神的成長を象徴する屈指の名シーンだ。