昭和中期から後期にかけて、高学年向けや家庭用の上質な裁縫箱に大きな影響を与えた人物がいる。文豪であり、着物デザイナーとしても一目を置かれた宇野千代だ。彼女が好んでモチーフにした幸福の象徴・桜模様は、裁縫道具のデザインに風雅な気品をもたらした。
日本の生活文化史という大きな流れの中で捉え直すと、家庭内での裁縫は単なる「家事の手間」から、個性を表現する「クリエイティブな趣味」へと少しずつ変化を遂げてきた。宇野千代の美意識が盛り込まれた裁縫箱は、日常の道具に美を見出してきた日本人の繊細な感性を今に伝える文化遺産と言っても過言ではない。