松本かおるのキャリアは、決して平坦なエリートコースではなかった。石川県金沢市で5人兄妹の4番目として生まれた彼女は、5歳で柔道を始める。幼少期から男子に混ざって稽古に励み、圧倒的な身体能力を見せていたが、同時に度重なる大きな負傷に悩まされ続けた。
右肩の脱臼、両肘の骨折、右手首の骨折。怪我の履歴は全身に及ぶ。普通なら心が折れてもおかしくない過酷なアクシデントの連続。しかし、彼女は立ち上がった。怪我で組み手ができない時期には脚力や体幹を鍛え抜き、寝技の精度を極限まで高めた。不運を言い訳にせず、自らの弱点と徹底的に向き合う粘り強さこそが、のちに世界を震撼させる「野獣」の素地を作り上げたのだ。
帝京大学進学後、その才能は大開花を遂げる。谷本歩実らを育てた名将たちの指導のもと、相手の動きを一瞬で見抜く勘と、泥臭く技をねじ込む勝負強さを確立。2010年の世界選手権で初優勝を果たし、世界ランキング1位へと上り詰めた。