鼻からの胃カメラに対して「まったく痛くない魔法の検査」というイメージを抱いていると、実際の現場で思わぬギャップに戸惑うことになります。経鼻内視鏡が従来の経口内視鏡に比べて圧倒的に優れている点は、喉の奥にある知覚過敏ゾーンを回避できる構造にあります。
口からスコープを挿入する場合、どうしても舌の付け根(舌根部)や喉頭蓋に機器が接触します。ここには脳の嘔吐中枢へと信号を送る舌咽神経が密集しており、異物を排除しようとする生理的な防御反応、すなわち嘔吐反射(咽頭反射)が不可避的に誘発されます。これが、検査中に涙を流しながら激しくえずいてしまう直接的な原因です。
一方、経鼻内視鏡ではスコープが鼻腔の底(下鼻道)を通り、喉の奥へと滑り込むように進みます。スコープが舌根部に一切触れずに食道へと通過するため、胃カメラ特有の「オエッ」という激しい絞扼感が劇的に抑えられます。日本各地の消化器内視鏡専門クリニックが公表している臨床データでも、経鼻検査を受けた受診者の8割以上が「口からの検査より格段に楽だった」と回答しています。
ただし、「嘔吐反射が起きないこと」と「痛みがゼロであること」は同義ではありません。鼻の穴から咽頭へ抜けるルートには、知覚神経(三叉神経)が張り巡らされた狭い骨のトンネルが存在します。スコープが鼻腔の粘膜や軟骨を圧迫する際、独特の「ツーンとする刺激痛」や「奥を強く押されるような圧迫感」を覚えるケースが一定数存在します。これが、ネット上で語られる「痛いという噂」の正体です。