話は2000年代初頭の東京・虎ノ門にさかのぼる。伝説的な名店「港屋」が考案した「冷たい肉そば」こそが、すべての始まりだ。漆黒のスタイリッシュな空間で提供されたのは、従来の日本そばの概念を根底から覆す一杯だった。
歯ごたえのある極太の蕎麦に、甘辛く煮付けた甘美な豚肉、どっさりと盛られた刻み海苔と白ごま。そこに合わされたツユには、自家製のラー油が浮いていた。繊細な出汁の香りを前面に出す伝統製法とは対極をなす、パンチの効いた濃密な味わい。外食産業に衝撃を与えたこのイノベーションは、またたく間に食通たちの胃袋を掴み、全国へ伝播するラー油蕎麦という新ジャンルを開拓したのだ。