酸素は命をつなぐ糧であると同時に、特定の病態下では猛毒へと変貌を遂げる。いわゆるII型呼吸不全を呈する患者に対し、低酸素血症の改善だけを目的に高濃度の酸素を無計画に投与すると、生体内の換気応答システムが崩壊を迎える。この複雑なメカニズムを紐解く鍵こそが、病態生理学・呼吸不全の探求に他ならない。
正常な体内では、二酸化炭素分圧(PaCO2)の上昇が延髄の化学受容体を刺激し、換気を促進する。しかし、慢性的炭酸ガス貯留状態に曝された身体は、CO2に対する感受性を低下させ、もっぱら低酸素(PaO2低下)を頼りに呼吸中枢を動かすようになる。そこへ突然高濃度の酸素が注ぎ込まれたらどうなるか。脳は「酸素は十分満ち足りた」と誤認し、呼吸ドライブを停止させてしまうのだ。その結果、CO2排出が急激に停滞し、アシドーシスが進行、最悪の場合は自発呼吸停止へと至る。