事件が起きたのは、冷たい雨が降る秋の夜だった。荒川に近い足立区鹿浜の一角で、悲鳴を聞いたという近隣住民の通報からすべては始まった。駆けつけた警察官が発見したのは、荒らされた室内に倒れる被害者の姿。目立った物色跡がなく、怨恨の可能性も視野に入れて捜査が進められたが、有力な目撃証言は得られなかった。
この地域は古くからの住民と新築マンションに移り住んだファミリー層が混在する、比較的治安の安定したエリアだ。それだけに、突如として牙を剥いた暴力の影は、コミュニティ全体に大きな疑心暗鬼を生むこととなった。防犯カメラの死角を突いた犯行手口から、土地鑑のある者の犯行ではないかという噂が当時、まことしやかに囁かれていた。