トップジョッキーの騎乗技術は、本馬場入場直後のウォーミングアップにも鮮やかに現れる。稀代の名手・武豊騎手は、馬の気性やテンションに合わせて極めて柔軟にコンタクトを取ることで知られる。気負いやすい気性の馬には馬場の外ラチ沿いをゆったりと歩かせ、完全に落ち着きを取り戻してから静かに発進させる。馬との対話を最優先にするその所作は、無駄な消耗を極限まで防ぐ。
一方、クリストフ・ルメール騎手の返し馬は、勝負に対する緻密な計算と馬の集中力を引き出すアプローチが際立つ。芝の塊を蹴り上げる感触や当日の馬場状態の硬さを確かめつつ、レースの勝負所を想定したかのようなシャープな加速を一瞬だけ促す。トップ騎手たちの手綱さばきを観察するだけで、その馬が今日どのようなレースプランを描いて挑んでいるのかがおのずと見えてくる。