半導体受託製造大手(ファウンドリ)の工場新設が相次ぐ日本の製造現場において、クリーンルーム内での薬液管理は以前にも増して厳格化されています。実際にメガファブや化学品製造ラインで働くエンジニアたちの証言からは、フッ化水素を取り扱う現場の極限の緊張感が浮かび上がります。
「新人の頃、先輩から最初に叩き込まれたのは『フッ酸の臭気(刺激臭)を感じた時点で、すでに許容濃度を超えていると思え』という指導でした。フッ化水素の臭気閾値は約0.04〜0.13 ppmと言われますが、鼻腔粘膜が慣れてしまうと臭いを感じなくなります。現場では固定式ガス検知器のアラームが鳴ったら、作業を直ちに放棄して風上へ避難するのが絶対ルールです」(大手半導体デバイスメーカー・保全エンジニア)
また、現場での被曝事故事例をシミュレーションした訓練でも、その過酷さが浮き彫りになっています。
「配管のバルブを開け閉めする定期点検では、たとえ配管内がパージ(窒素置換)されていても、全面形送気マスクと耐薬品防護服の完全装備を崩しません。一度、下請けの作業員が手袋の袖口から微量の洗浄液を染み込ませてしまい、本人が『何ともない』と言っていたにもかかわらず、安全管理者が無理やり救急搬送させました。病院でカルシウム浸透処置を受けさせたことで指の切断を免れましたが、もし翌日まで放置していたら指の骨が壊死していたと医師から告げられ、全員が青ざめました」(化学プラント保安担当)
現場では特定化学物質としてのフッ化水素の取扱いに関して、局所排気装置の定期自主検査や年2回の特殊健康診断(歯のエナメル質脱灰や骨密度検査、胸部X線)が厳密に実施されています。しかし、最も危険なのは日常的な慣れによる「手順の省略」です。設備が高度化しても、最終的に身を守るのは作業員一人ひとりの危機意識と、現場に整備された救命用資材の有無に他なりません。