日常生活で最も混同されやすいのが「DNA」と「遺伝子」の使い分けです。「DNAを採取する」とは言いますが、「遺伝子を採取する」という表現に少し違和感を覚えるのは、両者の性質が本質的に異なるからです。
DNA(デオキシリボ核酸)は、リン酸・糖・塩基からなる二重らせん構造を持った化学物質(ひも状の物質そのもの)を指します。一方の遺伝子は、そのDNAの塩基配列(アデニン【A】、チミン【T】、グアニン【G】、シトシン【C】の並び順)の中に記録された、「タンパク質を作るための設計図となる遺伝情報」のことです。
実は、人間の細胞内にあるDNAのすべてが遺伝子として働いているわけではありません。ヒトが持つ約30億対の塩基配列のうち、実際にタンパク質を合成する指示書(遺伝子)として機能している領域は全体のわずか1〜2%程度(約2万数千個)にとどまります。残りの98%以上は、かつて「ジャンクDNA(不要な領域)」と呼ばれていた非コード領域です。つまり、「DNAという長大なテープの中に、意味のある遺伝子というスポットが点々と散らばっている」というのが科学的に正確な姿です。