歌麿の鋭敏な人間観察が頂点に達した傑作が、『婦女人相十品』シリーズだ。鏡に向かって化粧をする女、煙管の煙を目で追う女、物思いに耽る女。観相学のパロディという体裁を取りながら、歌麿は身分や境遇によって異なる女性たちのプライベートな一瞬を切り取った。ここには、ポーズを取らされたモデルではなく、無防備な生活者の生々しい姿がある。
一方、当時の江戸で絶大な人気を誇った町娘たちを描いた『当時三美人』は、現代でいうトップアイドルのグラビアそのものだった。難波屋おきた、高島屋おひさ、富本豊ひな。三者三様の個性と美意識を描き分け、江戸の町人文化の熱気を一枚の画面に凝縮してみせた歌麿の手腕は、商業プロデュースとしても群を抜いていた。